春と肝臓

 肝臓には主に三つの働きがあるといわれます。
①胆汁の生産
②養分の貯蔵と流通
③毒素の分解
 食物中の脂肪分はすい臓から分泌される膵液によって消化分解されるのですが、脂肪分は炭水化物やタンパク質などよりも分解されにくく、その分解を補助するのが胆汁です。膵液によって消化分解された脂肪酸を腸内でより吸収しやすい形に変えるのも胆汁の働きです。脂肪分の摂り過ぎが肝臓に負担をかけるというのは、このためです。
 脂肪は植物性脂肪と動物性脂肪がありますが、圧倒的に消化分解が難しいのが動物性脂肪です。さらに動物性脂肪に含まれるホルモン剤や抗生物質などの毒素が肝臓に強烈なダメージを与えます。
 小腸で造られた血液と小腸から吸収された養分は門脈を通って肝臓に送られます。肝臓はそれらの血液と養分を貯蔵したり、必要に応じて全身に巡らせます。さらに肝臓は細胞から出た有害なアンモニアを害の少ない尿素に作り替える働きもしています。尿素はその後、腎臓に運ばれ、ろ過されて尿として排泄されます。肝臓と腎臓は血液をきれいにするうえでもっとも重要な臓器です。血液をきれいに保つうえで肝臓と腎臓はまさに「肝腎かなめ」なのです。
 肝臓に余力のある時は、食物から取り込まれた毒素は肝臓が分解してしまいますが、肝臓の余力が少なくなってくると毒素は肝臓に溜め込まれます。さらに肝臓の余力がなくなってくると毒素を消化分解できなくなってしまいます。「かなめ」である臓器が機能しなくなったら、私たちは日常を平穏に暮らしていけません。
 中国の陰陽五行説では春と肝臓は密接な関係があると説かれています。経験的、直感的に優れた古代の中国の人々が確立した五行説ですが、現代的に解釈しても春と肝臓の関係も強いものだと納得させられます。春は寒い冬が過ぎ、木々が次々と芽吹くように体の細胞も動きが活発になります。肝臓は体の中で一番大きな臓器であり、細胞がぎっしりと詰まった臓器です。心臓、腎臓、すい臓などとも比べても倍以上大きな臓器です。大きな臓器であればあるほど、春になり動きが活発となる細胞の数も増えるというものです。結果的に、腎臓の細胞よりも肝臓の細胞の方が、動きが活発になる量が圧倒的に多いのです。
 肝臓は英語でLiver。生き生きとした活動をつかさどる臓器が肝臓といってもいいでしょう。食肉でもおなじみのレバーも肝臓ですが、血液が多く、赤黒い色をしています。春になって血液循環が良くなれば、血液を大量に貯蔵する肝臓が活性化するのはよく理解できます。
 また、肝臓は肌のキメの細かさとも関係しています。肝臓がきれいな人は肌のキメも細かく、肝臓が悪い人はキメが荒いものです。黄疸になると肌が痒くなるということは現代医学的にもいわれているように、肝臓の状態と肌の状態は密接関係しています。ちなみに肌の色や血色に関しては腎臓との関係が深いのです。肝臓をいたわることは肌をいたわることで、肌をいたわる生活をすることは肝臓をいたわる生活をすることと等しいのです。
 肝臓と肌をいたわるのに、まず大事なことは睡眠です。肌の代謝が一番活発になるのは夜22:00~深夜2:00といわれています。この時間帯は、生命の何万年の営みにより、心臓や筋肉の動きが低下し、肝臓、腎臓、肌の代謝が高まる時間なのです。またこの間は副交感神経が優位となり毛細血管が開き、肌の血液循環が良くなり代謝が活発となる時間でもあります。このため夜22:00~深夜2:00の4時間は睡眠をとり、心臓や筋肉の働きを休め、副交感神経の働きを促すことが肌をきれいに保ち、かつ心身を安定させる生活上のコツなのです。早寝早起きは肝臓にとっても肌にとってもひじょうに大切なことです。