日本の言葉と歌のチカラ

 1980年代の日本の音楽が世界で人気だといいます。松任谷由実や山下達郎、竹内まりや、松山千春などの歌謡曲が日本語のまま世界中で聴かれているというのです。インターネットの時代ですから、世界中の音楽を聴くことができるのです。80年代の日本の歌謡曲のリズムが、私たちが心地よく感じるリズムであるといいます。1分間に100回程度が80年代の日本の歌謡曲の平均的なリズムで、このリズムは私たちが心地よくウォーキングや軽い運動をするときの心拍数と一緒だというのです。
 さらに、これらの曲を聴いていると、血圧や自律神経が安定してきて、穏やかな気持ちにさせるというのです。以前からクラシック音楽が自律神経の安定によいとされてきましたが、クラシック音楽以上に80年代の日本の歌謡曲は自律神経を安定させるといいますからすごいことです。
 ウクライナとロシアの紛争から世界中で軍備拡張の動きがあります。以前からの紛争の火種が、世界中で勃発してもおかしくないという状況でもあります。そんなきな臭い社会が、世界中で同時進行しているわけです。否が応でも不安と緊張に包まれます。そんな交感神経優位の社会にあって、80年代の日本の音楽が癒しになっているのです。
 リズムだけではありません。日本語そのものも癒される雰囲気があるといいます。世界中の人々の多くが、日本語を理解して聞いているわけではないのですが、リズムだけでなく、日本語の響きそのものに癒しを感じるというのです。ロシア人で日本に長く住んでいるアリシア・フォードさんという女性がいます。アリシアさんは元々、ロシア語と英語を話していたのですが、日本に来て日本語を勉強するうちに自分自身の内面が変わっていくことを感じるようになったといいます。日本語を話していると、心が穏やかになっていくというのです。ロシア語や英語では感じることのできなかった感性が日本語にあるというのです。
 今の日本語は、日本に元々あった大和言葉と中国から伝来した漢の言葉などが融合したものといわれます。大和言葉は漢字のとおり、大きな和の言葉です。言葉そのものに和するチカラがあると、アリシアさんの体験から納得するのです。私たちが日常、なにげなく使う日本語は、知らず知らずのうちに和する心を振りまいているのかもしれません。和する波動を持った日本語を、心地よいリズムで響かせたら、それを聴く人の多くが穏やかになっていくのでしょう。それが今、80年代の日本の歌謡曲が流行する理由ではないかと思うのです。
 そして、この言葉とリズムを生み出した日本の風土というものが、和する心の基礎にあると私は思うのです。文化と文明は、その表現に言葉があって、その基礎に風土があります。「所変われば品変わる」ように、風土が変われば食が変わり、言葉が変わるのです。日本語という心を穏やかにする言葉は、風光明媚で四季に富んだ日本の風土から生まれる食べ物あってこそではないかと思うのです。日本の食を和食というのも、和する食であるからです。
 マクロビオティックを提唱した桜沢如一は生前、世界を日本化してはじめて、世界は平和になるといいました。日本は戦後、米国化(アメリカナイズ)され、世界の多くの国々もアメリカナイズされました。自由と民主主義を標ぼうしながら、物質的には豊かになりました。しかし、一方で体の健康と心の安定は置き去りにされてきました。アメリカナイズされた人々の国々は、経済成長とともに医療費も高騰し、病人大国になっているのです。自由という名の暴力が、私たちの心と体を蝕んでいるのではないかとさえ私は思うのです。桜沢如一のいう日本化というのは、経済的利益を日本に誘導するものではありません。世界の国々がそれぞれの風土にあった繁栄をしていくことを後押しすることです。それぞれの風土に合った栄養学と経済学を確立することが大事なのです。日本の食養でいう身土不二は、そのことを言っているのです。
 世界は新しい境地に進もうとしています。日本の言葉と歌が世界の人々の心に響くのは、世界が日本化していくことを暗示しているのではないかと思うのです。